「資産」としての視点も大切に[資産価値編]
家づくりの最前線で活躍するプロを訪ね、これからの家づくりにあらかじめ知っておきたい考え方や基礎知識をうかがう取材シリーズ。
目次
今回お話をうかがったのは、札幌市を中心に、木をはじめとする自然の素材を生かした住まいづくりを手がけている(有)大元工務店の代表取締役 大元敏和さんです。先々を見据えた住まいを考える際に欠かせない「資産価値」を踏まえた家づくりについて、プロの視点からお話いただきました。

(有)大元工務店
代表取締役
大元 敏和さん
倶知安町出身。大学卒業後、東京でのゼネコン勤務を経て道内の工務店に転職し、木造の戸建て住宅を数多く手がける。2005年に大元工務店を設立。「人々が幸せを感じながら暮らせる住まいづくり」をモットーに、多方面からお客様を真摯にサポートしている
世代を超えて住み継がれる
「価値ある住まい」とは
これまで長らく「日本の木造住宅の寿命は30年ほど」と認識されてきましたが、ここ十数年の建築技術や建材の進化は目覚ましく、皆さんの想像以上に現代の木造住宅は長持ちします。
今は「長期優良住宅」といった住宅の資産価値を担保する仕組みも世間に根づきつつあり、正しく施工された高性能住宅なら、50年、100年というスパンで住み継ぐことができるでしょう。だからこそこれからの家づくりでは、自分たちが暮らす場としての心地よさや機能性に加え、「家を資産としてどう育て、先へつなげていくか」という視点も重要だと考えています。
弊社は「100年経っても価値ある住まい」を目指して家づくりに取り組んでいます。そのために配慮していることの一つがプランニングです。家族の暮らしは歳月の流れの中で変化し続けますし、いずれ家主が変わる可能性もあります。新築時に部屋や造作をつくり込み過ぎず、その時々の必要性にしなやかに対応できる余地がある間取りや仕上げにすることで、追加工事やリフォームがしやすくなります。
また設備や建材選びも重要です。設備機器は建物よりも寿命が短いものがほとんどですし、家の価値を維持するにはメンテナンスも不可欠です。交換や増設がしやすい設備機器を選んだり、メンテナンスの手間やコストができるだけ少ない建材を採用するなど、先々を見越した選択も、住まいの価値につながると考えています。
経年変化の味わいが愛着を育み
建物の寿命を延ばす
末永く気持ちよく暮らせる住まいを建てるためには、素材選びにも配慮が必要です。弊社では設立以来、道産木材やレンガ、塗り壁など、できる限り本物の素材を生かした家づくりを実践してきました。
自然素材の一番の魅力は、時が経つにつれて風合いや味わいが増していくことです。手触りや見た目の気持ちよさは、次第に住まいへの「愛着」に変わっていきます。「家を大切にしよう」という思いの根底にあるのは「愛着」だと私は考えています。味わい深く、美しく経年変化する素材を積極的に使うことが家への愛着を育み、住まい手の「この家をずっと残したい、もっと大切にしたい」という気持ちにつながっていくと思っています。


これまで建ててきたのは主に木造住宅ですが、独立する前はRC造の建物を数多く手がけていたこともあって、私は「コンクリート」も優秀な建築材料の一つだと捉えています。コンクリートの一番の魅力は、木に優る頑丈さと高い耐震・耐久性。これは資産価値の維持にもつながる特長です。
そのため今は、従来の「木造在来工法」と高品質なコンクリートパネルを用いた「N-WPC工法」の2つの駆体構造から選べる体制を整え、お客様にご案内しています。いずれも室内の仕上げや造作は同じようにつくれますが、間取りの自由度や建物の保証期間などに違いがあります。家づくりでは、選んだ素材が将来の暮らしや建物自体に与える影響についても検討することが大切です。
家を「資産」として生かす
「マイホーム借上げ制度」
100年住み続けられる家をどのように次の世代や住まい手に引き継ぐのかが、今後の課題になるでしょう。そこで私が注目したのが「マイホーム借上げ制度」です。
これは、国土交通省の支援を受け、持ち家を長く活用してもらうことを目的に設立された一般社団法人「移住・住み替え機構(JTI)」による、住み替えを希望するシニア世代の住宅を子育て世代に転貸する制度。シニア層の住み替えを容易にし、若年層に貸すことで住宅の資産価値を守る新たな取り組みです。一般的な家庭でも、公的なバックアップを得て持ち家をキャッシュ化し、セカンドライフに生かしやすくなります。
弊社では今年、この制度への登録と活用に必要な「ハウジングライフ(住生活)プランナー」の資格を取得しました。「価値ある住まいを建てる」からさらに一歩進み、安心して家を長く持ってもらえる提案を始めています。
どんな住まいにしようかと一緒に悩み、知恵を絞って完成させた住まいが「建ててよかった」という想いとともに住まい手に愛され続け、さらに新しい家族へと住み継がれていく。これが、今の私が想い描く「価値ある住まい」です。
大元工務店の事務所は、札幌の建築家が建てた築40年のコンクリートブロック住宅です。素材をそのまま現しにしている素朴なデザインで、普遍的な魅力を宿し続けています。この建物を通じて、事務所に来られたお客様に「本質的な住まいの価値」を感じていただけたらと願っています。
Case.1 札幌市・Fさん宅
裏手に雑木林がある160坪の宅地と出会い、スタートしたFさんご夫妻の家づくり。完成したのは、木や塗り壁といった自然素材をふんだんに使い、周囲の緑を取り込む窓や大きな吹き抜け、薪ストーブがある、ご夫妻が思い描いていたとおりの住まいです。キッチンは、奥さんのご要望で人が集まりやすいオープンスタイルに。ご家族の住みやすさと暮らしの安心に配慮が行き届いた心豊かな暮らしの場となりました。
Case.2 札幌市・Yさん宅
より良い子育て環境を求めて東京からUターンしたYさんご夫妻は、やがて市内の自然豊かなエリアにある住宅街に土地を見つけて購入。自然の素材感が心地よい薪ストーブのある約33坪の住まいを新築しました。実感したのは住宅性能の確かさ。「用意した薪の4分の1ほどしか使わなくても十分な暖かさ」とYさんは話します。「きめ細かな設計で、とても使いやすい」という奥さんの笑顔に、満足度の高さがうかがえました。
Case.3 札幌市・Kさん宅


共働きのKさんご夫妻は、背後に山並みが広がる眺望に恵まれた高台の土地を手に入れ、家づくりをスタートしました。大元さんは、2階LDKで窓から風景と陽射しをとり込めるプランを提案。きめ細かなコスト管理のもと、Kさんが希望した薪ストーブ、土間収納や造作の対面キッチン、洗面台や収納棚なども盛り込みました。住宅と一体的に設計したカーポートの屋根はバルコニーとして使える仕様。立地の魅力を生かした個性あふれる住まいで、ご家族は日常を楽しんでいます。

