新築住宅以上の基本性能を備えて100年住宅へ一新[リノベーション編]
家づくりの最前線で活躍するプロを訪ね、これからの家づくりにあらかじめ知っておきたい考え方や基礎知識をうかがう取材シリーズ。
目次
今回は、創業当時からリノベーションによる住まいの価値の再生にこだわり続けてきた札幌の工務店、アルティザン建築工房のCOO・新谷孝秀さんに、中古住宅のリノベーションが持つ無限の可能性について、現代の住宅事情と照らし合わせながら、語っていただきました。

COO
新谷 孝秀さん 札幌市生まれ。住設会社勤務を経て、住宅を手がける工務店への転職でリノベーションと出会う。2010年の独立以降、札幌圏で400件以上のリノベーション実績を積んできた。「リノベの伝道師」として全国で講演活動も行っている
現代の住宅問題の救世主として注目したい中古住宅の活用
2023年の総務省調査(令和5年住宅・土地統計調査)によると、全国の空き家は900万戸に達し、過去最高を記録しました。全国の住宅の、なんと7軒に1軒が空き家という計算です。古い建物に価値を見出す欧米とは真逆に、日本では新築住宅が好まれ、築年数が長くなるほどに建物の価値が下がることが空き家が増えた一因といわれています。
その一方、世の中では地価と資材価格、建築費が高騰。札幌圏で戸建てを新築するには、かつて3,500万円程度だったという予算が、今は6,000万円ほど必要だといわれています。さらに、追い打ちをかけるように住まいの脱炭素化、資源の有効活用で環境に負荷をかけない家づくりが求められています。国や自治体でも「いいものをつくり、きちんと手入れをして、長く使う」という持続可能な社会への転換を目指して、中古住宅の流通や活用を進めるさまざまな取り組みが行われるようになってきました。
そんな現代の住宅にまつわる諸問題解決に有効な手立てとなるのが、リノベーションだと私は考えています。今から20年程前、まだ専門に取り組んでいる会社がほとんどなかった頃、勤めていた工務店で初めてマンションのリノベーションを手がけたのがきっかけで、その無限の可能性に気づきました。単に住宅設備や内装材の交換などの改修にとどまらず、築年数を重ねた住宅に新しい魅力を与えることができ、次の世代へ社会資産として引き継いでいけるのが、新築にはない魅力だと感じました。
新築住宅以上の基本性能を備えて100年住宅へ
積雪寒冷地の北海道でいつまでも快適に暮らすには、優れた断熱・気密性が不可欠です。私たちはその点に着目し、リノベーションを行う際に、新築住宅を上回る基本性能を備えることを最も大切にしています。
現在、北海道の新築住宅に求められる省エネ基準は、断熱等級4。アルティザン建築工房では、断熱改修を行う際に断熱等級6以上を標準仕様にし、長期優良化リフォームの場合はBELSの認定も取得しています。豊富な実績によって育まれた独自のノウハウによって気密性能もアップ。古い建物に目立つすきま風対策も万全です。また、万が一の災害への備えとして、住宅性能表示制度で定められている耐震性の最も高い基準となる等級3相当を標準としています。これらの性能改修によって、現在の長期優良認定住宅や北方型住宅ECOと同レベルの基本性能を備えることができ、100年は快適に暮らせる価値ある住まいへ生まれ変わらせることができます。


さらに、子育てがしやすい機能、ライフスタイルにマッチする間取り、叶えたいインテリアデザインも新築住宅同様に自在にプランに反映することができます。それでいて、取得コストは新築に比べてぐっと圧縮でき、国や自治体の補助金、優遇制度、金融機関の新築と同等の住宅ローンなど、さまざまな制度が用意されています。住まいに新しい価値を引き出すことができるリノベーションは、住まい手にとっての住宅に関する諸問題のを解決する新しい住まいの形といえるでしょう。
プロの確かな目と経験で優良物件を見極めることがリノベーションの第一歩
私たちが今、リノベーションをお勧めする理由の一つに、既存住宅の性能のよさが挙げられます。基本性能や施工技術の目覚ましい進化により、1990年以降に建てられた住宅は、既存の性能にプラスαするだけで現代の最高レベルの省エネ住宅に一新できます。基礎が再利用できるケースも多く、その場合は建築コストをさらに圧縮することが可能。それを生かさないのは、もったいないと思いませんか?
その一方で、旧耐震の建物、床下の状態が分からない、湿気が多い、無筋基礎、天井裏が確認できない、建物が水平ではないなど、リノベーションに適さない中古物件もたくさんあるのも事実。リノベーションのベースとなる優良な中古住宅を見極めるには、プロの知識と経験が必要不可欠です。「北海道住宅検査人」や「既存住宅現況調査技術者」などの専門資格を持つスタッフがいる会社なら、購入前の念入りな物件調査を通じて、技術面や予算面でリノベーションに適しているかについて適切な判断をしてもらえるので安心です。
私たちは20年以上の経験を生かしながら、中古住宅の物件探しから住宅ローンのご相談、インスペクション(建物状況調査)の実施、設計デザイン、工事、アフターサービスまで、リノベーションを知り尽くしたスタッフがワンストップでお手伝いさせていただいています。今まで予算の壁を超えられずマイホーム取得を諦めていたご家族でも、リノベーションなら経済的な負担なく性能と保証が安心な住まいを実現できます。
Case.1 新琴似ZEHモデルハウス


札幌市北区で公開中のアルティザン建築工房のモデルハウスです。築44年の古い家をフルリノベーション。しっかりと基本性能を見直し、ZEH基準をクリアする高性能な住まいへと生まれ変わらせました。家庭用エアコン1台で室内全体の暖冷房・換気を行う全館空調YUCACOシステムと熱交換換気設備を採用し、屋根には9kWの太陽光発電パネルを搭載。省エネ+創エネ、IoT対応で経済的で便利に暮らせるスマートハウスを実現しました。
Case.2 札幌市・Tさん宅


Tさんは、狭い土地にコンパクトに詰め込んだような新築ではなく、古き良き余裕のある間取りを希望。アルティザン建築工房とともに理想の立地で中古住宅を見つけ、リノベーションを施しました。モデルハウスで体感して魅力を感じたという全館空調「YUCACO」システムを採用。物件探しのとき気になっていた藻岩山の眺望を取り入れた開放感あふれる間取りに、ご主人こだわりの「にじり口」を通って入る小さな書斎も実現しました。古家に残っていた昭和のガラスや建具もリユースしています。
Case.3 児童発達支援施設


築45年の中古住宅をリノベーションし、児童発達支援施設に再生利用しました。構造からすべて見直し、性能向上リノベーションにより、断熱性能はUA値0.23と、平均的な新築住宅以上のハイスペックとなっています。全館空調システムを採用しており、断熱強化のおかげでエアコン1台ですべての部屋の室温を均一に保つことができ、今年のような猛暑でも利用者の方々は快適に過ごすことができました。
