本当の自然素材を見極める[自然素材編]
家づくりの最前線で活躍するプロを訪ね、これからの家づくりにあらかじめ知っておきたい考え方や基礎知識をうかがう取材シリーズ。
目次
今回お話をうかがったのは、長年にわたってアレルギーや化学物質過敏症などの方でも安心して住める自然派住宅を手がけている札幌市の工務店(有)ビオプラス西條デザインの代表取締役 西條 正幸さんです。家づくりにおける自然素材について、これまでの経験をふまえて教えていただきました。

(有)ビオプラス西條デザイン
代表取締役
西條 正幸さん
伊達市出身。北海道におけるエコロジー建築デザインの第一人者として道産素材・自然素材にこだわった新築やリノベーションを手がけ、人の健康と環境に配慮したエコ住宅づくりを進めている。著書に「やさしい自然派住宅(北海道新聞社 刊)」がある
住まいは第三の皮膚
心地よい空間を自然素材で
自然素材の家づくりを始めて30年ほど経ちますが、もともとは娘がアトピー性皮膚炎だったことがきっかけだったんです。自分の家族と家を考えたときに、できるだけケミカルなものを使わない、食品でいえば無添加、オーガニックな住まいをつくりたいと考えました。
当時ちょうどシックハウス症候群や化学物質過敏症などが言われ始めていたけれど、今みたいにインターネットに情報があふれている状況ではなかったので、東京の建築グループや健康住宅の先進国であったドイツのツアーに参加して勉強しました。
今は自然素材に関心を持つ方も増えて、無垢材や塗り壁などを採用する家も多くなってきました。ただ、本質的な意味での自然素材の家とは少しスタンスが異なると感じています。
私は「住まいは第三の皮膚」だと考えています。ちなみに第二の皮膚は衣服です。チクチクするシャツや蒸れやすいビニールのコートは着心地がよくないですよね?それと同じように、家も呼吸ができて心地よいものであるべきだと思います。だからこそケミカルなものは使わずに、木・石・紙などの自然由来の素材だけで家をつくりたいのです。
健康な家は万人に対してリスクがありません。今はアレルギーのある家族がいなくても、途中で発症したり、生まれる子どもがアレルギー体質かもしれません。誰もが健康で安心して暮らせるのが、自然素材の家なのです。
見えない部分もノンケミカル
接着剤も自然由来で
昔に比べると自然素材を使った家を建てる人は増えています。住宅をつくる側もユーザーのニーズに合わせて自然素材を取り入れるところが多くなりました。しかし、パッと見では本物の木や塗り壁のようでいて、実は自然素材「風」だったり、見えないところにはケミカルなものが使われているケースが多いのです。
よく聞く無垢フローリングにはいくつか種類があり、無垢材だけを使ったものから、合板の表面に薄い無垢の突板を張っただけのものまで千差万別です。表面は木や紙を使っていても、それを張り付けたり固めたりする接着剤やパテ剤がケミカル素材では自然素材とは言い切れません。また、表には見えない部分、壁の中の構造材や断熱材には化学物質が使われていることがほとんどです。
私が家づくりで使う床材は、完全無垢のフローリングやコルクタイル、リノリウムなど、壁・天井は漆喰や珪藻土、和紙やウッドチップ、リネンなどで、すべて自然素材です。接着剤やパテ材も自然由来のもの。
建具はもちろん構造材に至るまでほぼ100%道産の無垢材を使っていますし、断熱材は印刷工場で廃棄される新聞紙を原料にしています。素材や建材選びをここまで徹底しているのはすべて、「家が原因で健康を損なわない」をモットーにしているからこそのこだわりです。
自然素材「風」の家と自然素材の家の違いを把握しておかなければ、自分が求めた呼吸する快適な住まいにはならないことを知っておいてほしいと思います。
無垢の風合いが家になじむ
経年変化も楽しむ家づくり
自然素材を使うことにメリットは多いのですが、もちろん気をつけなければいけない点もあります。天然木は生きて呼吸しています。そのため温度や湿度の変化で反りや割れ、歪みがどうしても出ますし、傷がついたり日に焼けて色が変わったりもします。
そうした経年変化は劣化ではなく風合いや味となり家になじんでいきます。メンテナンスについても、神経質にならなくてOK。「傷ついたり汚れたりしたら修復すればいいや」ぐらいに考えてください。自然素材はその家の歴史のひとつとして変化していくものなのです。
最近は自然素材を好む人も増えて、中古住宅のリノベーションなどでも多く使われるようになりました。その反面、自然素材風に仕上げただけのものも多く、見た目はいいのですが、本質的な機能や第三の皮膚としての役割を果たせていないものも見受けられます。
また「水まわりに自然素材は向かないのでは?」と言われることがありますが、最近はデザインも機能も優れた素材が開発されています。私がよく水まわりに使っている炭化コルクタイルは耐水性や耐久性が高く、塗装によりカラーバリエーションも豊富です。
噴火湾のホタテを使った漆喰は、多孔質で硬く丈夫。産業廃棄物であるホタテの殻を有効活用したエコロジカルな素材でもあります。先に紹介した廃棄新聞紙の断熱材や、道産木材を使った構造材、江別のレンガや地元産の石素材など、できるだけ北海道の素材を取り入れるのも、私の家づくりのテーマのひとつです。
Case.1 月形町・Yさん宅
慣れ親しんだ月形町でYさんご夫妻が平屋を建てたのは17年前。ふんだんに使われた自然素材は美しい経年変化を遂げ、古色仕上げの梁を現しにしたおおらかなLDK空間には、奥さんが長年集めてきた数々の雑貨やインテリアのコレクションがしっくりとなじんでいます。日常のこまめなお手入れと住まいへの愛情の集積によって、Yさんの住まいはより心地よく、健やかな暮らしの場に育っていました。
Case.2 仁木町・Sさん宅
神奈川県から仁木町に移住して新規就農したSさんご夫妻は、購入した醸造用ブドウの農地に立っていた築50年のコンクリートブロック住宅の1階をリノベーションしました。自然素材の仕上げが心地よいリビングには、既存の集合煙突を活用して薪ストーブを設置。断熱改修の効果で、この1台で室内の隅々まで暖まるといいます。大きな窓の外に北海道らしい風景が広がるリビングで薪ストーブの炎を眺める時間が、農閑期のご夫妻にとっての楽しみとなっています。
Case.3 石狩市・三角屋根リノベーション


「北海道の古民家」とも呼ばれる、築45年を経たコンクリートブロック造の三角屋根の家のリノベーション例です。以前の住人がリフォームで交換していた玄関ドアや窓サッシ以外について断熱改修を行い、断熱・気密性能を向上。今の暮らしに合わせて生活動線に配慮した間取りに見直すとともに、室内外に道産木材やホタテ漆喰の塗り壁、和紙や麻のクロスなどの自然素材を用いて、末永く心地よく健康に暮らせる住まいに再生しました。

