薪ストーブを安全・安心に楽しむには[薪ストーブ編]
家づくりの最前線で活躍するプロを訪ね、これからの家づくりにあらかじめ知っておきたい考え方や基礎知識をうかがう取材シリーズ。
目次
今回ご登場いただくのは、札幌市にショールームを持ち、薪ストーブの販売・施工から定期メンテナンス、薪の販売までをトータルにサポートしている(株)北海道リンクアップの取締役専務 磐渕純子さんです。家づくりにあたって安全・安心な薪ストーブ生活を送るために必要なことをうかがいました。

(株)北海道リンクアップ
取締役専務
磐渕 純子さん
札幌市出身。薪ストーブ専門店・北海道リンクアップ設立時からのスタッフ。主にショールームでお客様の声を数多く聞き、専門知識はもちろんのこと、自宅でも長年薪ストーブを愛用しているユーザーとしての視点も踏まえて実践的なアドバイスを行っている。
高断熱・高気密住宅における
薪ストーブ導入時の注意点
薪ストーブは暖房器具としてだけでなく、観賞用としても人気が高い住宅設備です。やわらかな暖かさや熱の持続性、炎を眺めて過ごす癒やしの時間などたくさんの魅力がありますが、安全・安心に楽しむには、いくつか注意点もあります。
薪ストーブは新鮮な空気が薪を燃焼させ、その熱で発生する上昇気流が煙突を通って煙を外に逃す仕組みです。
現代の住宅は高気密・高断熱・24時間換気が当たり前。給気・排気が機械制御の「第1種換気」は内外の圧力のバランスが保ちやすいですが、排気にのみ機械を使う第3種換気」の住宅は、室内の気圧が外よりも低い「負圧」状態になりやすく、薪ストーブの煙が室内に逆流してしまうケースがあります。
これは着火時に薪ストーブの近くの窓を少し開けたり、キッチンの換気扇を一時的に停止させたりすることで解消します。
また、よく聞くのが煙突から出る煙や臭いによる問題ですが、これは多くが乾燥が不十分な薪を燃やしたことや、着火時の燃焼温度が低いことが原因です。
「乾燥が不十分な薪」を使うと不完全燃焼し、嫌な臭いのする煙が出て、炉内や煙突内にすすやタールが付着したりしてしまいます。また焚き始めは、小割りにした焚き付け用の薪をたくさん使って勢いよく燃やし、一気に炉内を高温にすることも嫌な煙を出さない秘訣です。
雨に濡れず、風通しの良い場所に長期間保管して、十分に乾燥させた薪を使うこと。着火時に十分な数の焚き付けを使って炉内と煙突内の温度をしっかり上げること。正しい方法で扱うことで、薪ストーブのよくあるトラブルのほとんどは防ぐことができるでしょう。
どんな暮らしをしていきたい?
設計時から薪ストーブを考える
新築での快適な薪ストーブ生活に必要なのは「家を建てる前から薪ストーブを想定した設計を行うこと」です。煙突の位置や本体の設置場所、暖気の対流経路、薪を運ぶ動線など、環境や条件が整うことで薪ストーブはその性能や魅力を最大限に発揮します。
重要なのは「どんな『薪ストーブのある暮らし』を目指したいか?」という住まい手のイメージです。主暖房として毎日使うのか、補助暖房として休日限定で炎を楽しむのか。それだけでも機種の選択肢は変わります。
私たちはショールームに来られたお客様と暮らしのイメージを共有しながら、数あるラインナップから最適な1台を見つけるお手伝いをしていますが、「薪ストーブは手間がかかる暖房なので、無理をしないことも大切ですよ」ということをお伝えしています。
朝に薪を焚くのが大変なら、その時間はFF式のガスストーブやエアコンを使うなど、補助暖房機器を上手に組み合わせて、自分たちが無理なく薪ストーブを楽しめる住まいのプランにすることが、薪ストーブを長く楽しむためには重要です。
ネットやカタログの情報だけでなく
実物を見て、話を聞いて検討を
薪ストーブは、試行錯誤を繰り返しながら育てていく楽しみがある道具です。最初はうまく温度調節ができずに、室内が暑すぎたり、なかなか暖まらなかったりするかもしれません。でも次第に愛着が湧きます。「思いどおりに薪を焚けるようになって嬉しい」「最初は奥さんが導入に消極的だったけれど、今は家族みんなで薪ストーブ生活を満喫している」などの声も少なくありません。
特に病みつきになるのが、薪ストーブの暖かさです。体の芯から暖まる遠赤外線による熱の心地よさは、一度体感するとやめられません。薪ストーブの特徴は「熱が持続すること」です。夜寝る前に消しても、場合によっては朝方まで室内にじんわりとした暖かさが残ります。薪ストーブのやわらかな暖かさは、ぜひ一度肌で感じてみてほしいです。
薪ストーブの導入を検討する際は、住宅のプランが固まる前に一度、当店に煙突を出す位置や薪ストーブの設置場所などをご相談いただくと安心です。今はインターネットで情報収集ができますし、カタログを見れば各機種のスペックも分かりますが、薪ストーブは設置する住宅の性能や位置、間取りなど、環境が違うとパフォーマンスが大きく変わります。
ショールームでは実際の薪ストーブの暖かさを体感でき、使い勝手や本体のサイズ感の確認も可能です。薪ストーブは手間がかかる暖房ですが、使うとみんなとりこになります。しっかりと環境を備えて、安全・安心に薪ストーブ生活を楽しんでいただきたいですね。

Case.1 札幌市・Tさん宅
昔からアウトドアが好きだったというTさんは、中古で購入した築23年の住宅の和室をリフォームして、その一角にHETA(ヒタ)の薪ストーブ「エクリプス ソープストーン」を後付けしました。和洋折衷の空間になじむこの機種は、大きくてクリアなガラス面が特長。炎が美しく映え、室内が暖まるのも早いそうです。「気持ちいい暖かさに満足しています」と笑顔のご夫妻にとって、炎の前での晩酌が冬の夜の大きな愉しみになっています。
Case.2 札幌市・西宮の沢リンパ整体院
Eさんは、以前ピザ屋でバーモントキャスティングスの「アンコール」を目にして以来、薪ストーブへの憧れを募らせていました。3年前に店舗併設の築30年の住宅を購入して、整体院を開業。昨年、思い切ってリビングに導入しました。使い出すとその暖かさに大満足。「遠赤外線効果で朝方までほんのり暖かさが残りますし、室内は乾燥した感じもありません」。整体院のエリアにも薪ストーブを入れるのが、ご夫妻の次なる目標です。
Case.3 札幌市・Hさん宅


緑豊かなエリアの一角に一軒家を建て、憧れの薪ストーブを導入したHさん。2度目の冬に向けて、初めてメンテナンスを依頼しました。作業は、煙突掃除とストーブ本体の分解掃除がメインです。薪ストーブはドブレの「760WD」。周囲をしっかりと養生したうえで、炉内のパーツを分解しながら掃除を進めます。煙突掃除は、下から専用のブラシを差し込んで、溜まったすすを掻き出すスタイル。プロによる定期的なメンテナンスが、安全で安心な薪ストーブ生活を支えます。

